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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)1545号 判決 1949年12月14日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人山口貞昌の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

第一点について。

所論檢事訊問調書中「裁判所書記」の傍に「檢察事務官」と添記し而かも其加除の字数を明らかならしめる為めの記載なくまた認印も施していないことは所論の通りである。しかし同調書を調査するに右添記した檢察事務官の五字は其位置及び同調書末尾に檢察事務官村上正一が檢事小宮益太郎と共に署名捺印している事実等に鑑み裁判所書記の五字を檢察事務官と訂正する為めであることを推認し得るから、同調書は檢事小宮益太郎が檢察事務官村上正一立会のもとに作成されたものと認め得るものである。從って、論旨は理由がない。

第二点について。

原判決は、李四鳳に対する檢事訊問調書中の「御読聞けの強盗は私はやりませんが皆がやったことは間違ありません」との供述記載を証拠として挙示したこと、及び右読聞けの書類の内容を引用していないことは所論の通りである。しかし原判決は所謂読聞けの書類内容を証拠にしたものとは認め難い。從って読聞けた書類の内容を引用しないからとて違法とはいい得ない。もっとも右御読聞けの強盗とあるだけでは、何時何処で如何なる強盗行為をしたのであるか具体的に明らかではない為め、右の証拠によっては被告人以外の者がある強盗行為をなしたこと、並に其強盗行為には被告人は関係のない事実を知り得るに止り、本件犯罪の証拠としては極めて價値少なきものであるが証拠能力なきものではなく、挙示の証拠と綜合して判示事実を認定したものであるから、之れを証拠としたことは採証法則に違反するものではない。從って論旨は理由がない。

第三点について。

本点の論旨は多岐にわたっているから番号の順を追うて説明する。

(一)一、二、三、六、について。

論旨は判事が李四鳳に対して為した逮捕状の日附は昭和二二年一二月二二日であると主張する。よって所論逮捕状を調べて見るに日附「二三日」は「二二日」と誤読し易い書体ではあるが右は三の字の一劃が重なった為めであってよく注意して見れば二三日であることを認め得る從って右逮捕状の日附を二二日であることを前提とする論旨は採用しがたい。なお論旨は李四鳳については所謂緊急逮捕に該当する罪を犯したことを疑うに足る理由が存在しないと主張するが同人に対する逮捕手続書を見れば刑訴應急措置法第八條第二号の罪を犯したことを疑うに足る理由があると認められるから論旨は理由がない。

(二)四、五、について。

司法警察官が刑訴應急措置法第八條第二号に基き所謂緊急逮捕を為すに当り各被疑者に対し逮捕状を得ることができない理由を告知したことを証明し得べき記録のないことは所論の通りである。按ずるに刑訴應急措置法第八條第二号により被疑者を逮捕した場合においては逮捕手続に関する調書を作成すべき旨の規定はなく、また判事の逮捕状を得ることができない旨を被疑者に告知したことを書面上明らかにしなければならない旨の規定もない、從って本件の所謂緊急逮捕について司法警察官が被疑者に対し判事の逮捕状を得ることができない理由を告知した事実を確かむべき記録のない一事を以て右告知をしなかったものと断定することはできない。仮に所論の如く司法警察官が右告知をしないで逮捕したものとすれば右逮捕は正に違法であることは所論の通りであるが、記録に徴すれば所論檢事の訊問調書は判事の発した逮捕状の日附の翌日(昭和二二年一二月二四日)であるから適法な判事の逮捕状が発せられた後に作成されたものであることが明らかである、從って仮に所論の如く逮捕其ものは違法であるとしても適法な逮捕状発令後に作成された檢事訊問調書を不法抑留中に作成された違法のものであるとはいい得ない、從って所論檢事訊問調書を証拠としたことは何等法則に反するものではない。

なお所論の如く承諾同行の美名のもとに其実強制を加えて被疑者を警察署に連行することは違法であって厳に之を禁止しなければならない、しかし本件においては承諾の美名のもとに強制を加えて被疑者を警察署に連行したと認むべき形跡はない、從って本件の承諾同行を以て違法と断定することはできない。論旨は理由がない。

(三)七について。

論旨は司法警察官が逮捕状を請求する場合は其理由を記載した請求書により檢事を通じてなすべきであるのに本件においては逮捕状請求に関する書類が記録中に存在しないから逮捕状発令が違法であると主張する。しかし刑訴應急措置法第八條第二号は司法警察官は直接判事に対し逮捕状の発令を請求し得る旨を規定している、そして本件各逮捕状発令に付いては司法警察官稲垣康幸から逮捕状請求をしたものであることが明らかであり且つ逮捕手続書の記載により各被疑者に対し緊急逮捕をなすに充分な理由のあることが明らかであるから逮捕状発令については何等違法はなく、論旨は理由がない。

(四)八、九、一〇、一一、について。

論旨は本件檢事の勾留状請求は刑訴應急措置法第八條第四号によるものであるにかかわらず旧刑訴法第二五五條の強制処分請求と誤認し刑訴應急措置法第八條の範囲内において改正され効力を失った右第二五五條に基きすでに逮捕状を発せられた被疑者に対し重複して勾引状を発し且つこれを執行した上勾留状を発したものであるが逮捕中の被疑者に対し勾引状を発することは無用であり且つ違法であるばかりでなく効力なき刑訴法第二五五條に基き勾留状を発し之れによって被疑者を勾留したことは不法拘禁である、もっとも右不法勾留は後に至って適法な手続により更新されたが最初の勾留が不法である為め其瑕瑾は更新後も継承されるから右不法な勾留中になされた公判廷における被告人の供述は違法性を失はないと主張する。しかし記録に徴するに判事は刑訴應急措置法第八條第四号により勾留状の請求を受け適法な手続を経て勾留状を発したものであるから、勾留状を発する以前に勾引状を発した瑕疵があるとしても、之れが為めに適法な手続を経て発せられた勾留状を無効であるとはいえない、從って所論の勾留状による勾留を目して不法拘禁であるとはいい得ないから、本件勾留状は違法であることを前提として、右勾留状による勾留中になしたる被告人の公判廷における供述は不法拘禁中になした違法性のものであるとの論旨は当を得ない。論旨は理由がない。

よって旧刑訴法第四四六條により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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